コラム 経営の羅針盤

人材不足感が続く日本企業 人材投資の実際(下) 2019/08/15 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所

◆OFF-JT費用の労働者一人当たり平均額は1.4万円、自己啓発支援費用の労働者一人当たり平均額は0.3万円

前半では、企業における能力開発の主体と方針についてみてきました。ここでは金額からみてみます。

“平成29年度の企業の教育訓練への支出状況を見ると、OFF-JTまたは自己啓発支援に支出した企業は56.1%。OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額(費用を支出している企業の平均額。以下同じ。)を見ると、1.4万円と前回(1.7万円)に比べ減少、また、企業が自己啓発支援に支出した費用の労働者一人当たり平均額を見ても、0.3万円と前回(0.4万円)に比べて減少している。”

他の項目で「研修などは全社員対象か?」を聞いている質問があり、これは「全社員対象」が半数を超えています。正社員に対する教育投資は年間平均2万円を下回っているということです。OJTが主流であることを考えると、一概にこれだけが投資金額というものではありませんが、皆さんはこの金額をどのように考えるでしょうか?

“正社員に対する過去3年間(平成27年度~平成29年度)のOFF-JTに支出した費用の実績では、「増加した」(25.1%)が「減少した」(5.7%)を19.4ポイント上回っている。一方で、「実績なし」は42.2%である。正社員に対するOFF-JT費用の今後3年間の支出見込みでは、「増加予定」(36.6%)が「減少予定」(1.6%)を35.0ポイント上回っている。一方で、「実施しない予定」が32.7%である。”

小会の調査および上記調査においても「人材投資」について前向きな結果が出ていますが、逆に今後3年において「実績しない予定」が3割を超えていること、また増加傾向にあるとはいえ、OFF-JTにおいては前述の金額ということで、この辺りが海外企業との差にもなるのかもしれません。また一律に「人材」と言っていますが、ITやAIに関する人材、研究開発などの技術者・専門職への人材投資は増加していると考えられており、正社員全体で考えると上記金額より少ない投資が多いことも予想されると思います。

◆人材流動化、多様化時代の人材投資

上記においてOJTの金額は出ていませんので、最終的に企業がどのくらいの人材投資をしているのかを本結果のみでみることはできません。ただし、間違いなく日本企業はOJTを重視していることがわかります。OJTは「自社に必要なスキルを身につける教育」体系であることが多いというイメージではないでしょうか。

自社からのみ求められる人材・特化した人材、を育てることは自社の将来的な成長につながるでしょうか? 自社のスキルのみならず、社会・他社から求められるスキルをもった人材を育てる、そのことはその企業の魅力にもつながり多様性にも繋がると考えます。

人生100年時代といわれるようになり、企業任せでない自分のキャリア形成を、というメッセージもみかけますが、現状、企業は企業ありきの人材投資をしています。そこにギャップがあるため、「量」だけでない「マッチングの視点」において社会全体の「人材不足」感が続いていることも想像されます。

今回、本コラムにおいては正社員のみを取りあげましたが、上記「能力開発基本調査」においては非正規社員の調査結果もあわせて報告されています。非正規社員においては、上記正社員よりも低い教育費・機会となっています。多様化する働き方や人材の活用が進むなか、企業および社会において人材の戦略化・投資を考える必要もあるでしょう。

◆多くの企業の経営課題である「人材不足」や「人材投資」

働き方や価値観の多様化、人材流動化、オープンイノベーションなど、社会は多元化しています。
自社に必要な人材、社会から必要とされる人材、他社からも魅力的な人材が豊富だと思われる組織・・・。
「他社から求められる人材を育てたい・雇用したい」vs「自社で活躍して欲しい・出て行かないで欲しい」
終身雇用の長い日本企業においては、後者に引っ張られる人材育成計画・投資になるのは理解できます。

しかしながら時代は変化しています。

これからの時代、組織として体系的にどのように人材投資・育成を考えるのか。
経営そして人事・人材開発部門は、これら社会感・価値感などの変化を鑑みた上で、将来の自社の持続的成長の観点と、人生100年時代の社員のキャリア形成を視野に、人材育成施策・投資に取り組む視点が必要になるといえるでしょう。(終)

<出典・参考>
平成30年度「能力開発基本調査」(厚生労働省)
平成29年「雇用関係によらない働き方」に関する研究会 報告書(経済産業省)
第39回当面する企業経営課題に関する調査「日本企業の経営課題2018」(日本能率協会)
日本能率協会 KAIKA研究所(KAIKAプロジェクト)