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開催報告 ドイツIndustrie4.0の最前線と日本の課題特別講演会 2018/10/12 お知らせ

一般社団法人日本能率協会(JMA、会長:中村正己)は、2018年10月14日(日)~20日(土)の7日間、2018ものづくり革新ドイツ視察団 ~ドイツ・ものづくりの強さを学ぶIndustrie4.0・産官学連携を中心に~と題し、ドイツでの現地視察団事業を実施します。それに先立ち、本事業にご参加される方、また、ドイツのものづくりにご関心をお持ちの方を対象に、「ドイツIndustrie4.0の最前線と日本の課題」をテーマに特別講演会を開催しました。その模様をお伝えします。

●ドイツIndustrie4.0の最前線と日本の課題 特別講演会●
会期 2018年9月28日(金)10:00~12:00
会場 トランスシティカンファレンス・京橋 Studio2
参加者 約30名
特別講演会には、ドイツ連邦共和国大使館一等書記官のマルコ・シュルト氏、ドイツ日本研究所所長・ミュンヘン大学教授のフランツ・ヴァルデンベルガー氏にご登壇いただきました。

●インダストリー4.0とその展望●

シュルト氏からは、現在、ドイツが取り組んでいる、インダストリー4.0の概要や、インダストリー4.0を推進していくためのプラットフォーム、そして、現状の課題と今後の展望までお話しいただきました。
インダストリー4.0の意義は、生産性の向上にとどまらず、経済的・社会的インパクトを与え、スマートファクトリーの実現をもたらすことだとされています。
ドイツ業界団体のアンケート調査によると、ドイツ国内企業の約80%がインダストリー4.0に取り組んでいる、という結果が出ています。そして、その内、20%が具体的なソリューションを導入していました。そこで、残りの割合を、どう行動まで促していくかが、インダストリー4.0の課題であり、チャンスである、と述べていました。
現代社会で生じている、2つのパラダイムシフト⇒取り入れるべきポイント
①中央集権型管理から地方分権型組織への動き⇒製造プロセスにも同様の動きを取り込む必要がある
②ユーザー中心の意識
⇒パーソナル化、オンデマンド、スマートデータの利用、ユーザーフレンドリーを意識したサービスの提案が必要になっている

ドイツでは、インダストリー4.0を推し進めていくために、学術、政府、産業界、業界団体等を巻き込んだ、プラットフォームインダストリー4.0を作り、一丸となって行動しています。このプラットフォームは、海外の企業も参入できるようなオープンなコミュニケーション・プラットフォームで、海外の参入を期待している、とのことでした。
その他にも、インダストリー4.0を推進するための取り組みとして、2つのツールが紹介されました。
・コンパス:デジタル化に向け、インダストリー4.0の解説や説明会の実施を案内しているガイダンスブック。※ドイツ国内のみでの使用に制限。
バーチャルマップ:300件程のインダストリー4.0への取り組み事例を、大企業から小企業まで幅広く掲載している。
経産省とロボット革命イニシアティブ協議会の協力のもと、類似マップの日本版も存在。
シュルト氏は、ドイツと日本は、労働力人口の減少や、歴史ある企業・産業界が変革していく必要性、といった課題を抱えており、類似環境に置かれているように感じる、と。ドイツにとって、日本は、製造業の割合が(GDPで見ても)非常に高く、お互いに分かり合えるパートナーと考えており、デジタル化・スマートファクトリーの実現に向けて欠かせない、製造業の“標準化”に一緒に取りくめれば、と述べ、講演を締めくくりました。

●ドイツから見た、日本の働き方改革の可能性●

ヴァルデンベルガー氏からは、日本の生産性と働き方に関して、ドイツという外の視点を通すことで、日本の働き方改革の可能性について、お話しいただきました。

OECDの統計(2016年発表)によると、日本とドイツの年間平均労働時間の差は、約350時間=2週間になるようです。最近、日本でも働き方改革が広まってきていますが、長らく、「長時間労働=美」とされてきた風潮があったかと思います。そもそも、なぜ、長時間労働が問題だとされるのか、下記3つの理由が挙げられる、とのことでした。
①個人の満足度が下がる
②個人の健康が損なわれる
③労働時間と生産性の関係-無駄な時間は生産性を低くする・長く働き続けると生産性が落ちる

実際に、日本の労働時間は長いものの、一人当たりGDPはドイツや米国より低いため、日本の労働生産性は低い、と見られてしまいます。日本がこれから直面する、高齢化や労働人口の減少といった課題に打ち勝つには、「諸外国との労働生産性の差を埋める、すなわち、労働生産性を高めることが大切だ」と述べられていました。

日本の労働時間が長い、また、労働生産が低い理由は、従業員や技術のレベルといった生産要素の質や量ではない、とされています。なぜなら、OECDの調査結果にあるように、日本の教育レベルや技術・スキルは非常に高いことが分かるから、と。
考えられる原因は、要素の配分や使い方の非効率性で説明できるとし、与えられたタスクが多すぎる、過剰サービスといった、マネジメントの面と、自由時間の価値や使い方、「頑張る精神」といった、日本の文化・精神的な面などが挙げられていました。
具体的な施策は、その原因により、異なってくるのですが、一例として、日本の新卒一括採用の変革が挙げられていました。日本では、会社に染まる、会社ありきのキャリアプラン設計が主流ですが、ドイツでは、自分でキャリア設計をしていくため、どういった働き方をしていきたいのかを考え、それに基づいた仕事の采配を実践しているようです。

そこで、これから、働き方改革を進めていくにあたり、まずは、労働環境の現状を知ること、そして、労働時間がなぜ長いのか、という分析から取り組むべきだ、とヴァルデンベルガー氏は主張していました。
最後に、「そもそも、従来の日本的なやり方を変えることは可能だと思っているか、望んでいるのか」、という質問を会場に投げかけて、講演を締めくくりました。

尚、2018ものづくり革新ドイツ視察団は、いよいよ10月14日(日)出発です。