いまこそ一人ひとりがリーダーシップの発揮を(1) 2019/12/20 コラム Tweet
一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田高志
◆いま求められているリーダーシップとは
先が見えない時代、企業の進むべき道を指し示し、導いてくれるような偉大なリーダーとは、どんなリーダーなのだろうか。
そもそも、将来がどうなるか誰にもわからなくなっているときに、進むべき方向への明確な解をもっているリーダーなど、存在するのだろうか。そんなリーダーの出現を待つよりも、自分たちが次の一歩を踏み出すべきなのではないか。
リーダーシップとは、けっして一握りの政治家や経営者だけの問題ではない。このような時代であるからこそ、職場のマネジャー一人ひとりや、チームを束ねるリーダーが、メンバーとともに、自分たちの進むべき方向を探り、そこに向かって、一歩ずつ進んで行かなければならない。
今回のコラムでは、リーダーシップの実践的なテキストの世界的ベストセラー『リーダーシップ・チャレンジ』を紐解きながら、いま求められているリーダーシップとは何かを、あらためて問い直したい。
◆普通の人が発揮するリーダーシップ経験から導かれた原則
『リーダーシップ・チャレンジ』は、アメリカのリーダーシップ研究の第一人者であるジェームズ・クーゼスとバリー・ポズナーの両氏(ともにサンタクララ大学教授)によって、1987年に刊行されたテキストである。その後も研究を重ねることによって現在では第6版が出版され、これまでに世界で20カ国語に翻訳され、200万部以上が読まれている。
このテキストのルーツは、両教授による、人びとが「自己の最良のリーダーシップ経験」をしたときに、どのような行動をとったかについてを研究した成果にさかのぼる。本書をユニークであり、かつリーダーシップ実践テキストの名著たらしめているのは、この研究対象の選択の仕方にある。
世にリーダーシップに関する書籍は多数あるが、カリスマ的な経営者や歴史上の人物のエピソードに基づくものが多い。しかしながら、この『リーダーシップ・チャレンジ』においては、世の中の普通の人びとを研究対象としている。数千人にものぼる普通の人びとに対してインタビューなどを行い、彼ら・彼女らが大きな成果を成し遂げたときのリーダーシップ経験を分析することで、そこに普遍的に共通するリーダーシップの実践を5つにまとめたのである。
したがって、ここで提唱されているリーダーシップは、けっして突飛なものでも目新しいものでもない。しかし、ごく普通の人びとのリーダーシップ経験をベースとしているがゆえに、先天的な才能によるものではなく、学習することが可能な能力であり、誰しもが実践につなげられるものとなっているのである。
この研究によって導かれた模範的リーダーシップの5つの実践については追って詳述するが、次回は『リーダーシップ・チャレンジ』の基本的な考え方を紹介したい。<(2)へ続く>
※本コラムは、『JMA Management Review』2011年5月号をもとに筆者が加筆・修正を加えたものです。