企業文化(カルチャー)の重要性 2022/03/29 KAIKA Tweet
一般社団法人日本能率協会
KAIKA研究所
近田高志
Culture eats strategy for breakfast.
直訳すると、「カルチャーは朝食に戦略を食べる」となりますが、企業文化は戦略を簡単に平らげる、打ち負かすということを意味しています。ピーター・ドラッガーによる言葉とされているものです(ただし、書籍や文献には、そのような記述は残っていないようですが)。
どんなに素晴らしい経営戦略を立てても、それを実行する社員一人ひとりの行動が伴わなければ、絵に描いた餅に終わります。組織に根付いてい社員の思考パターンや行動様式、それこそが企業文化にほかなりません。
いま、多くの日本企業に事業の変革が迫られています。少子高齢化による国内市場の縮小、消費者の価値観やニーズの変化、デジタル技術を活用した代替サービスの出現。加えて、コロナ禍による社会経済活動の抑制や海外からのインバウンド需要の蒸発など、さまざまな外的環境の変化によって、これまでの事業形態やビジネスモデル、勝ちパターンが通用しなくなってきています。
事業構造を変革し、新しい製品・サービス・事業を創り出していくことが必要となっており、そのためにも、社員が新しい視点で発想し、自律的・主体的に行動し、変革を実行していくことが不可欠になっています。
現状に囚われずに新しいことへ挑戦する文化、自律的に考え行動する文化、変革を途中であきらめずに最後までやり遂げる文化。こうした企業文化が求められているとも言えるでしょう。
日本企業が毎年実施している経営課題調査にも、このような課題認識が表れています。
当面する経営全般の課題として、「事業基盤の強化・再編」や「新製品・新サービス・新事業の開発」が上位の課題に挙げられています。また、組織・人事領域における課題では、「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」が第3位に挙げられています。特に、製造業では第1位の課題となっています。
実際の企業における取り組みにおいても、組織風土の改革が進められています。日本能率協会が2014年より実施している「KAIKA Awards」の2020年度の受賞事例においても、そうしたテーマが多く見られました。
例えば、KAIKA大賞を受賞した日本電気株式会社(NEC)のテーマは、「NECグループにおけるカルチャー変革(実行力の改革)の取り組み」。中期経営計画の柱の一つに「実行力の改革」を掲げ、経営トップの強い決意のもと、社員との直接対話を重ね、オープンで分かりやすいコミュニケーションを徹底し、目指すべ方向性やさまざまな情報を共有。社員に求める新たな行動基準を打ち出すとともに、人事評価制度とも連動させるなど、一連のさまざまな施策を展開することで、意識・行動の変革を進めました。
また、KAIKA賞を受賞した株式会社PFUでは、「イノベーション風土を醸成し、新たな価値の創造にチャレンジし続ける“Rising-V活動”」というテーマで、社員から新しい製品や事業のアイデアを募り、挑戦を支える取り組みを実施。同様に、明治安田生命保険相互会社では、「『企業風土・ブランド創造運動』『Kizuna運動(全社運動)』の取組み」というテーマで、全国の従業員のボトムアップによる活動を通じて、行動原則やフィロソフィーの浸透に取り組み続けています。
そのほかにも、KAIKA Awardsの応募事例には、組織風土の醸成に関するテーマが数多くありますが、共通するポイントは、トップやリーダーの強いコミットメント、丁寧なコミュニケーション、職場での活動や対話を通じた想いの共有、人事部門や企画部門あるいは有志メンバーによる活動の推進です。
そして、何よりも重要な点は、そうした活動に多くの社員が参加し、じっくりと時間をかけて取り組んでいることです。
企業経営においては、最終的には業績を達成することが重要です。しかし、冒頭に述べたように、企業文化は戦略を打ち負かします。経営戦略を実行し、自社の経営理念や志を達成し、企業が持続的に成長し続けるためには、遠回りに思われるかもしれませんが、健全な企業文化を醸成することが大前提となるのです。