コラム経営の羅針盤

多様性を受容し、育む 2013/04/24 コラム

日本能率協会 理事 JMAマネジメント研究所 所長
柴野睦裕

◆日本人学生の勝るところ

春は、フレッシュな新入社員が入社し、気分が一新される季節である。日本能率協会(JMA)では、毎年この時期に、新入社員を対象に『会社や社会に対する意識調査』を実施している。また同時に、その上司・先輩にも、新入社員に期待する仕事への取り組み姿勢や育成方法について調査し、双方の意識や関わり方についてのギャップについて分析している。

今年の調査結果からみる新入社員の特徴は、「キャリア」や「成長」についての関心が高く「向上心」もあるが、一方で「調和・安定志向」の人が多いという傾向が見受けられることである。

一般的にも、「堅実で安定志向が強いが、社会貢献意識は高い」といわれるゆとり教育世代。ゆとり教育世代の新入社員は、将来への不安が強まる一方の失われた20年のなかで育ち、学校や就活の過程で「仕事やキャリアの開発は主体的に取り組み、そこに自分らしさや自己実現を見いだしていくべき」とのキャリア自律論を刷り込まれてきた人が多いという現実がある。その特質は何か。

JMAの次世代経営者育成プログラムとして定評のある『JMI』の主任講師・三品和広氏(神戸大学大学院教授)からの、「解のある問題は韓国や中国の学生に劣るが、解のない問題を説くのは日本の学生が勝る。また、チームとしてみると、この世代のゼミ生は明らかに変わってきている。それぞれの強みや個性があり、お互いを認め合いながら、ゆるやかなつながりを保ち合う傾向がある」との言葉が印象深い。つまり、創造性があり、多様性を認め合うチームワーク力があると解釈できる。活かし方次第で大きな成長が期待できる世代として捉えるべきではないだろうか。

問題は、受け入れる企業側の新入社員への接し方と育成のしかたである。上記の調査結果で最も懸念される点は、指導・育成方法への双方の期待ギャップであり、新入社員は「仕事について、事細かに教えてほしい」(仕事の意味づけを理解したい)が、上司・先輩は「自分で考えるように仕向ける」(早く自律してほしい)傾向が強いことである。このギャップが解消されないまま進むと、新入社員は退職につながる危険性が高まる。新入社員の仕事観やキャリア観とのギャップをいかに無くす努力・工夫をするか、また良質なコミュニケーションを図れるかがお互いにとっての大事なポイントである。

 

◆次代に向けて価値創造する

企業として、「志や情熱があり、実行力・行動力がある優秀な人材」を獲得したいことは当然である。新卒採用段階ではこのような優秀な人材は少数派であり、激しい争奪戦となっている。問題は、このような人材を社会として発掘し、育み、いかにして多数派にできるかである。政府は成長戦略の一環として、生産性や人材流動を促す雇用政策や、若者や女性の活躍に期待する人材活性化施策を打ち出している。時代の変化に即して、従来の社会システムを変革し、必要な規制改革を行なうことは政治の役割であり期待したい。

一方、そのような改革を適切な成果に結実できるかが問題であり、その大前提として、多様な価値観を受容しあえる組織や社会に進化しえるかが日本の大きな課題であろう。

企業組織の進化形を音楽で例えるなら、優秀な指揮者のコンダクトのもとでそれぞれのパートを担う演奏家の集団であるオーケストラ型から、個性の強いミュージシャンが全体観のなかでそれぞれの創造性を発揮してストーリーを奏でるジャズセッション型への転換をイメージする。組織調和型から価値創造型への転換である。JMAでは、「個人の成長」と「組織の活性化」と「組織の社会性」を同時に満たし、継続して価値創造する力を持つ次世代組織をつくる運動として『KAIKAプロジェクト』を推進している。

日本もグローバリゼーションの波に否応なく呑み込まれ、社会・経済の大きなパラダイム転換期にある今。企業組織の個人には、キャリア自律が当然のように求められる時代となり、ライバルは日本人以上に貪欲で向上心と専門キャリア志向が強い外国人であり、究極のライバルは自分自身であるとの認識を持たねば勝てない。企業組織には、社会で認められる自社の独自性の発揮が求められ、そのためには、多様な社員それぞれが厳しくも前向きに仕事を楽しみながら、組織やチーム活動を通じて人が育ち成長する喜びが継続して実感できる環境を創り、組織能力を高められなければ生き残れない。

地道に日本の持ち味を活かしながら、多様性を育んでいくことが肝要である。