キャリアの「引き出し」を増やす動き 2013/07/22 その他 Tweet
日本能率協会 JMAマネジメント研究所 リーダー
長沼明子
◆名刺使い分けの感覚
「働く人のリアル」を言語化したいと、座談会を企画した。“次世代組織をつくる”活動を応援する取り組み、KAIKAプロジェクト※1の一環である。もちろん、世代によって、環境によって、さらには個々人によって、働く意識は異なるので、ごく一部の現象を今回は切り取っただけである。しかし、この断片に、一つの「価値観」を捉えるヒントがあるのではないか。それを少し拾ってみたい。
名刺交換をしたときに、「実はこういう名刺も持っているんです」という2枚目、3枚目の名刺をもらったことはないだろうか。そうした光景の「当たり前度」があがっているのではないか。そのようなきっかけから、本業以外に何らかの活動を持つ方々3名に集まっていただいたのが、今回の座談会である。(詳細は、KAIKAスタイルマガジン2号※2をご覧いただきたい。)
今回伺った社外活動はいわゆるボランティア活動と少し異なる。無償ではあるが、別組織でも普通の“仕事”をしている状態、または「プロボノ」と言われるような活動である。また社会人大学院に通われている方にも参加いただいた。その方々に共通していたことが大きく3つある。1つ目に、「社会貢献がしたい」が先に立つよりも、自身の幅が広がるだろうといった感覚がまずあるということ。2つ目に、始めたきっかけはちょっとしたことであり、少しずつその活動への傾倒が高まっていったような点。そして3つ目に、本業をシフトしたいというわけではなく、軸は本業に置きつつ、2つ、3つと各場所でのポジションを持つような動き方がある。すなわち志・社会・自分という観点を持ちながら各自なりのバランスをとってうごいている様子に見受けられた。時間の使い分けが難しくなるものの、本業は確実にこなしたうえでという姿勢も共通している。
なすべきことをなし、依頼を受けた人に応え、といったことは仕事の根幹であり、その過程を通じてその人への信頼は増していく。その機会が、本業でも本業以外でもあるので、あちこちから返ってくる信頼そのもので自身への評価の手ごたえを得られているのが彼らの一番の強みではないだろうか。そうすると社内評価が唯一絶対ではなくなり、自身のスキルアップも会社が用意したものありきではなくなる。
こうしたことで、本業活動に携わる自身を客観的に見られるように自然となるのではないだろうか。環境変化等でキャリアが変わらざるを得なかったり、自身の志向が変わったりすることも往々にしてある。初めからキャリアを描き切ることより、志向を広げられるためのキャリアの「引き出し」の幅、選択肢、視点をどれだけ広げ続けられるかが、今の時代に役立つ感覚ではないだろうか。
◆「つながりセンス」という視点
社外活動を持つ彼らの強みはもう一つある。社外活動の中で、人と人との「つながり」を起点として“事を動かす”経験を持っていることである。社外活動はフラット型組織であることが多い分、人を巻き込みつつ事を動かしていく「仕事の仕方」がそこにはある。
たとえば新規領域を開拓しようとするとき、他組織や、他組織に属する誰か、を巻き込みながら一緒に新たな方法を考える動きは、一社単体でやるよりも有効な場合が多くなっているように思う。そのようなときに、「巻き込み」力をうまく発揮できるかが、成功を左右するかもしれない。
「巻き込み経験」や「つながりセンス」という見方で、会社の枠を超えて個々人のポテンシャルを見ると、組織にとって思わぬ発見が増えるかもしれない。組織側が「つながりセンス」への感度をあげることが、個人の自律と組織の活力をつなげるポイントではないだろうか。
※1 KAIKAプロジェクト
https://kaikaproject.net/
※2 KAIKAスタイルマガジン 2号
KAIKAプロジェクトの機関誌。購読希望の方は上記HPから連絡いただければ送付します(無料頒布)。