中国でスパイラル・アップする日本企業の経営 2014/03/10 コラム Tweet
JMAマネジメント研究所 主管
上野裕昭
日本能率協会では中国・上海で「上海地域(中国)評議員会」を定期的に開催し、中国進出日本企業の経営者の経営課題認識にもとづく討議や知見の交換を行う活動を継続的に行っている。これは、2004年に「日系企業経営者交流委員会」としてスタートし、2012年に現在の形に改組され発展してきたものである。およそ10年にわたり中国進出日本企業経営トップと継続的な定点的な活動を行うとともに企業の取り組み動向をウォッチしてきたものである。去る2月開催の同評議員会で示された日本企業経営者の課題認識や現状認識を振り返り、いくつかの視点・動向を紹介する。
◆ 持続的成長のため中国内需をとらえる!
従来、中国進出したB2B型の日本企業の多くは、現地進出の日系企業を相手にビジネスを展開し、日系企業同士によるエコシステムの中で成長拡大してきた。今後の持続的な成長のためには、国営、民営を問わず中国国内企業のニーズや需要を掘り起こすことが重要ととらえられている。ところが、いまや中国企業との関係性を強めニーズや需要の掘り起こしを行うことが本格化している。
そうしたなかで、国内(中国)の巨大な内需を考えると、チャイナリスクの意味合いも変わってくる。中国内の生産拠点におけるリスクへの対応という視点よりも、市場そのものをどう深掘りし持続的成長を確かなものとするか。日本企業が中国市場の創造、チャレンジするという、ビジネス本来のリスクと向き合うことになる。
◆ 中国で自社の戦略に磨きをかける
ある日本企業の話だ。グローバル連結における中国法人グループの営業・利益シェアは、数字的にはきわめて小さなものだが、中国で事業・経営戦略を磨きあげることこそが自社にとって中国で展開することの意義があると考えている。こうした考え方が示された背景には、中国で欧米企業や中国国内企業、海外新興国企業まで多様な競争者と厳しい競争を経験してきたがゆえに、日本企業が経営の発想を転換していると言えるのではないか。
厳しい競争環境下で自社の競争優位性を獲得するための戦略策定と、その実践行動で自社の戦略策定・実行力を高め、それをもって他の新興市場や他の国・地域への展開を図ろうとする野心的な取組みに向き合っているとも、筆者の目には映る。
◆ 人材マネジメント問題に現実的に対応
中国人ナショナルスタッフの幹部への登用など戦力化に向けた人材マネジメント上の問題が、昨今では日本企業の経営者からしばしば指摘される。基本的には経営の現地化、現地人材の積極的な活用を進めたいという意見が大勢を占めるが、その具体的な実践は多様である。
自社の理念や中国ビジネス展開の文脈(進出の歴史や発展過程、業種、経営形態など)に沿って、現実的な人材マネジメントを行うことで問題を乗越えてきている。日本本社からの派遣駐在員を極力減らすというのが一般的な考え方であるが、ある企業では本社から100名単位の駐在員を中国地域本社に派遣し、日本本社の中国ビジネス対応力の不十分な面をカバーしているという。これもグローバル経営実践の一つのやり方であろう。依然、日本本社自体のグローバル化への対応に課題が残ると指摘する中国現地法人トップの声もあるが、各社独自のやり方で円滑な意思疎通をはかり実効性をあげようとしていることは事実だ。
◆ 中国発の開発でグローバル市場を目指す
最近、中国製造業の間でも生産過程で自動化への動きが活発だ。中国人労働者の人件費の高騰という理由だけでなく、生産工程上の作業困難性の高い作業をロボットへ置換えるなど、品質や生産性の向上を図るねらいが背景にあるようだ。FAシステム・機器や測定・分析システム・機器の日本メーカーの何社かはこうした動向をとらえて、中国の研究開発拠点で国内(中国)市場向け製品開発を活発に行っている。
さらに、中国発でのグローバル市場を目指した開発体制へと強化しつつある。また、日本のある事務機器メーカーによると、中国の開発拠点で製品化し国内(中国)でビジネス的に成功を収めた商品とその開発過程を通じて得たノウハウや開発技術は、他の新興国市場に展開しても十分通用し成功するだろうと自信を深めている。
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「上海地域(中国)評議員会」に参加する経営トップの課題認識の底流には、二つのパーセプション(思考様式)とそれに伴う行動があるようだ。一つは、中国国内市場に向き合うことで事業・経営のレベルを高め、経営そのもの質を進化させて成長発展を実現しようとする思考様式と実践。そしてもう一つは、中国を軸として、グローバル市場に対する戦略的なSCM拠点として展開を図り成長発展を実現しようとするそれらである。
中国でも企業として「当たり前のことを、地道にやり続ける」ことで、日本企業が経済活動体として市場に深く入り込み、また、その過程で培われたものを中国発の新興国市場開発のための製品やビジネスノウハウとして活かしてスパイラル・アップしている、そんな日本企業の像が映し出されてくる。