ブラックかホワイトかの議論の前に―― 若者よ、“額に汗して働こう! 2014/04/22 調査 Tweet
JMAマネジメント研究所 主管
大和佐智子
フジテレビでこの4月から始まった番組『ブラック・プレジデント』を観た。アパレルメーカー社長に扮する沢村一樹がやり手の経営者、かつ傍若無人ぶりを発揮するコミカルドラマだ。そんな社長だから、社員の前では歯に衣着せぬ暴言を吐き、顰蹙も買う。
初回はその社長、社会人枠入試で大学に入学し経営学を一から学びだす。キャンパスライフで接触する若い講師や学生たちに、社長は学生に渇を入れ、若い彼らにとっての常識的な考えに一刀両断を下す。もちろん、反感を買い抵抗も受けるが意に返さない。一方には、そのパワーに感化されていく学生たちもいる。ぬるま湯という大学の場において、シニカルにも現実を直視させようかとしているようだ。
だが、それは主演俳優のキャラも手伝ってか、心底笑ってしまう。なお、私はフジテレビの回し者でないのでお断りしておく。2回の放映だけでは推測の域をでないのだが、ブラック企業スレスレの社長は若者の気持ちがわかり刺激を受け、その若者たちも大人の考え、社会の厳しさを学ぶというストーリーになるのかも知れない。
◆ リアリティーショックはホンモノ!?
日本能率協会(JMA)は、この3月に社会人1年目の若者に調査を行った。2013年4月に入社した新入社員たちだ。入社から1年――彼らはどんなふうに変貌したのだろうか。
彼らの2割はすでに会社への不満を募らせている(入社時点での不満は2.6%)。社会に出てみれば、イメージしていなかった会社員生活も、現実とは大きなギャップがあって当然だ。だからこそ、不満も生まれる。それが問題だとは思わないし、健全な思考だといえる。別の聞き方で「入社前に抱いていた“期待”と、いまの会社を比べてどうか」という質問もした。26%が「期待外れ」と回答しており、4人に1人はリアリティーショックを受けているということがわかった。とりわけ、「事務・管理系」の35.3%が期待外れとしており、「営業・販売系」は25.0%もいる。
続いて、会社が合わないと感じたときの行動も訊いた。この結果がちょっと末恐ろしい。「あまり我慢せず、できるだけ早く辞める」とする社会人1年目が多いことだ。全体平均は14.5%。ここでも気になるのは、「営業・販売系」の20.8%、「事務・管理系」の17.6%が「できるだけ早く辞める」としている点だ。それに対して、「研究・開発系」全体平均とほぼ同じ14.3%。「生産・製造系」は8.3%でしかない。
これまでも、「3年で3割」が辞め、そのうち1年目に辞めるのは6~7割にのぼるという数字は指摘されてきた。その一方で、これまでの就職難で厳しい就活戦線を乗り越えてきた、若者も我慢強くなったとも聞く。
だが、今回の1年後の追跡調査ではこう出た。“事務・営業系”の若者たちの5人に1人は、1年にしてあっさりと転職を決めてしまうのだ。ここに問題がある。
◆ ブラックとホワイト
そこには、いくつかの要因が考えられる。まず、新入社員にとって、職業選択を本当に自分の適性と能力・スキルを勘案して決定した結果なのだろうか。つらくて我慢が出来ないなら、辞めるという選択肢ではなく、その会社で働き続けるための打開策を考えたのだろうか。情報過多の時代、多くの若者は経験もないまま、あたかもわかったようなつもりになって、あっけなく判断してしまっていないか。
いつの時代も新入社員のときに描いていた会社員生活と、現実の生活は違うし、期待とは裏切られるものだ。多少の行き当たりばったりのところがあっても、仕事をするうちに仕事の面白さを味わう。
若者の問題以上に、職場側の問題も大きい。若い人たちに迎合することなく、指導すべき点は教えているのだろうか。ちょっと厳しく指導すれば、やれパワハラだの何だのと、訴えられる可能性が高くなった。かつ、指導する上司や先輩らも成果主義や業績至上主義によってプレイングマネジャーで苦しい立場が続く。ゆっくりと「若手を育てて行こう」などという職場の雰囲気はない。
採用時にも都合の悪いことは伏せて、結果としてよいイメージ形成を促す「白い嘘」が多いことも事実だ。つまり、若手側だけの問題ではない。
これからの日本社会、産業を支える若者が就業機会を失えば、国力の低下は避けられない。新入社員を受入れる側も、こうした長期的視点で接していかなければならないのだ。
冒頭のテレビ番組のストーリーがどのように展開していくのか、私は知らない。タイトルの「ブラック・プレジデント」が「ホワイト」に変貌するのかも知れない。しかし、あの働き方は、事業を成長させたいという強い思いと、額に汗して仕事をすることの楽しさを上手に描いてもいる。ブラックか、ホワイト企業かという議論も少し下火になったようだが、こうした決めつけをする前に、働くことの楽しさを見出すことを、職場の上司や先輩が親身になって伝えていくことを忘れてはならないだろう。