コラム 経営の羅針盤

ビジネスリーダーの認識力 2014/06/23 人材

JMAマネジメント研究所 主管
上野裕昭

ワールドカップ2014ブラジル大会の熱い戦いは、王者を決めるべく佳境を迎えつつが、サッカーファンやスポーツ観戦ファンだけでなくその競技の様子や競技の歴史、各チームや選手一人ひとりの背後にあるストーリーには、実に示唆に富んでいる。

◆ シャビがもつ驚異の状況認識力

旧聞で恐縮だが、前回(2010年)のサッカーワールドカップの優勝国のスペイン代表チームのプレースタイルは、世界各国のサッカーチームから注目され、“打倒スペイン”を目標に強豪チームからも、さまざまな分析や解析が行われてきた。

そのスペイン代表チーム(というより、スペインリーグの常勝チームのFCバルセロナ)を動かす世界トップクラスの名手、シャビ=エルナンデス選手は驚くべき状況認識力を持つという。同選手は、類まれな脳の働きを持っていることが現代のスポーツ科学で解き明かされている。

彼の脳はフィールド上に立って観た光景、ボールと選手の位置、どこにスペースがあるかの視覚情報に加えて、サッカー場の上空から鳥瞰図として全体的にものをとらえる働き=認識をしているそうである。さらにこれに時間感覚が加わり、位置関係という空間認識に加えて時間認識で、状況がどう変わるかを無意識のうちに判断してプレーをしているのである。

つまり、直観が働いた状態でのプレーとなるのである。シャビ選手はマスコミの取材に「サッカーは頭でするもので、間抜けな人間に優れたプレーはできない」と答えているが、この言葉は決してオーバーではないのだ。

このワールドクラスのサッカー選手のエピソードには、二つの注目すべき伏線がある。 ひとつには、シャビ選手は身長が高く、俊足で、いわゆる屈強なフィジカルに恵まれた選手ではない。選手に対する伝統的な見方は「力強さ」、「耐久力」であり、それとは相容れない選手だったのである。
では、その彼がどうして才能を開花させたのか。彼の隠れた秀でた能力を見出した元監督のルイス=アラゴネス氏(故人)の存在は大きい。同監督にはそれまでの伝統的な価値観、ものの見方によらないプレースタイル、戦い方へのビジョンがあったのだろう。

もうひとつは、シャビ選手の「状況認識力=優れた直観」がプレーに発揮されるようになるには、すぐれた育成環境下での厳しい練習と経験的な積み重ねがあり培われたことである。シャビ選手はFCバルセロナが下部組織に設けているエリート育成機関のカンテラ寮で、容赦のない徹底的な競争環境のもとで鍛え上げられて、比類ない状況認識力を兼ね備えるようになったのである。多くの試合経験を重ね、脳が直観的な働きをするようになるまで理論と実践を積み重ねたのである。

彼らのエピソードは企業・組織活動にも多くの示唆を与えてくれる。経営者に求められる視点を、シャビ選手の持つ状況認識力に重ね合わせるとどうだろうか。

◆ ビジネスリーダーよ、オーケストラの指揮者たれ

経営・事業、組織運営に関わるビジネスリーダーに、オーケストラによる演奏の様はよきメタファー、気づきの機会をもたらしてくれる。
経営環境や競争環境を読み解いたり、イノベーション推進や未来洞察をするために扱うべき変数(変化因子)はますます多様化、複雑化している。その変化時間と速度は高速化しつつある。いまほどビジネスリーダーに多元的で創造性豊かなプレーとチーム・組織運営をすることを求められている時代はないであろう

そこで、ビジネスリーダーをオーケストラの指揮者に重ね合わせてみた。すると共通点が多いことに驚かされる。さまざまな楽器と演奏家からなるオーケストラを指揮、先導する指揮者。企業で策定された戦略・目標や経営計画という譜面をもとに、経営・事業運営行うビジネスリーダー。

オーケストラの中には個性豊かなソリストを全面に出しながら際立った演奏からなるパートもあれば、それぞれの楽器演奏が重層的に重なり合い奏でられるパートもあり、いろいろな演奏が繰り広げられる。演奏を聴く者の感動を創り、最後には『ブラボー!』の歓喜の声と拍手を生み出す。そんなオーケストラを指揮する指揮者像とビジネスリーダー像は、それぞれの文脈においてきわめて重なり合う存在だ。

オーケストラの指揮者もビジネスリーダーも、いまだ目の前まで起こり得ない事象をとらえて、未来を創造しているといえまいか。