海外の学修で人材基盤を豊かに 2014/08/25 人材 Tweet
JMAマネジメント研究所 主管
上野裕昭
日本の企業活動をはじめ経済・社会全体のグローバル化への取組みのために、人材のグローバル化、すなわち、世界で通用する人材の育成・強化の課題が取り上げあげられる今日である。本稿ではグローバル人材基盤のとしての人材プールを形成する企業人も含めて大学生以上を中心とした、海外での学修を一層促進・強化することを提起する。調査統計数値が比較的整備されている日本から米国への留学の実態を交えて紹介したい。
◆ 問われる日本留学生の学修の質
日本経済・社会のグローバル化への対応推進の必要性から、政府は『「日本再興戦略」改訂2014-未来へ挑戦-』の中で、大学改革/グローバル化等に対応する人材力の強化をアクションプランのひとつにあげている。日本人留学生を5万7501人(2011年文部科学省調査)から2020年に12万人へ倍増以上にすることを標ぼうし、国費による奨学金制度での留学派遣人数を約2万人にする計画をしている。
また、近時、大学在学中の海外留学を必修とすると計画発表する日本の大学も少なくない。こうしたグローバル化人材の人材プールを形成する大学生を中心にした、留学生の数的な増強計画はいろいろ準備されつつ今日である。
そんな中、留学による学修の質をどう確保し、高めてゆくかの課題認識を忘れてはならない。足元の、日本からの米国留学の状況を参考データで見ていただきたい。日本からの留学シェアの第1位(約2万人)である米国の留学時点での学修レベルは約半数が学部レベル。ただし、これは、留学時点(すなわち米国での課程スタート時点)での数字であり、所定の正規課程を修了できたか、学位取得できたか(出口ベース)については、その実態は必ずしもとらえ切れていない。日米間の留学支援をしている専門組織にヒアリングしても、残念ながらいわゆる卒業、履修終了ベースの実績数字はとらえられてないとのことだ。感覚的にしかとらえられないのが実情であるが、学部正規課程を終え、学位取得できている日本人は2割にも満たないのではないかとの、厳しいとらえ方もある。
◆ 意識変革がもとめられる留学・海外での学修
大学生を中心に持たれている「海外の大学はしんどい、就職活動で不利である、苦労・リスクの多い海外に行かずとも日本国内で大学は卒業できるし、何とか日本で食っていけると」とらえる学生と親も少なくない。親にしてみれば、企業業績や経済状況から、不安の多い将来に対する備えの方が先で、子弟の海外での学修に必要な財源を割くことは現実的にハードルが高いとも言える。 国や大学、企業が学修意欲のある留学生をさまざまな形で援助、支援することへの必要性は高まっていると言える。
日本発のグローバル企業を標ぼうする日本企業を中心に、企業戦士の多くは事業活動のグローバル化で、海外の多様な国籍の人材と日本人の人材競争が進みつつあることを認識し、また、これが身近な現実のことがらとなっていることを体験している人も多いと思う。 なにも日本人でなくとも優れた人材であれば、国籍を問わず自社で活かしたいとする人材活用が進行していることを身近なこととするビジネスパーソンも多い。
そうした中、みんながそうだと断じて言わないが、日本の大学生は、小学生の学習時間以下の学修時間と言われ久しく、自らの学修のあり方が問われている。企業・組織は、「答えのないものに答えを見出す思考と行動ができる人材」、「自ら考え自ら行動する人材」を求める。企業に求められる人材候補となるには、海外での学修に限らず日本発の人材の学びの量と質が求められているとも言えよう。
◆ 変われるか企業・組織~内なるグローバル化
大学生の間で持たれる「海外留学、海外で学ぶのは就職・就活に不利」という認識は、企業の人材採用現場からもたらされているのも事実であると言わざるをえない。企業自身が海外留学が就職活動に不利という認識を覆すことができるかも期待されているのだ。
企業経営者により人材課題への対応として、グローバル人材の育成・確保を進めたいとメッセージ発信がある一方で、海外留学を経験した課程履修者の採用・獲得の実施プロセスにギャップがあるのも否めない。企業の人事マネジメントプロセス自身が従来のモノカルチャー(Mono Culture)的な価値観から脱皮し、多元的な視野や価値観にもとづく創造性豊かな人材確保プロセスとして具現化・実践できるか、問われているのである。
グローバルに事業展開する日本企業自身の思考・行動様式が越えなければならないことがらは、まだ少なからずある。日本の企業組織自らが、「内なるグローバル化を体現する」プロセスはその一つであろう。マ・ル・ド・メ(海外現地法人からみて、日本国内組織のありさまがまるでドメスティックの意)の言葉が聞かれない日が到来することが待たれる。
企業のみならず、経済・社会の地球規模での事業、活動を担う人材の数と質を高める ことは、まだ当面、日本社会にとり重要な取組み課題である。思想・歴史・文化や人間性についての多様性や固有性への理解や洞察を深めるため、日本を離れた現地、現場の経験やものの見方、思考様式が欠かせない時代に1人ひとりが身を置いている。