コラム経営の羅針盤

シリーズ 北海道「食・農・観光」徒然記〔2〕 2019/01/17 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所
田中達郎

◆北海道が直面した災い

2018年の今年の漢字に「災」が選ばれました。“命の危険を感じる暑さ”を経験した夏、西日本に甚大な被害を与えた豪雨、勢力を維持したまま北上していく大型の台風。また、大阪府北部や島根県西部、そして北海道胆振東部で発生した地震。本当に災害の多い一年であったといえます。記憶に新しい北海道の地震では国内初のブラックアウトが発生し、数日の間、道内在住者や旅行者が不便な生活を強いられ、改めて日本のインフラ維持の脆弱性も指摘されることとなりました。

台風や豪雨が農業生産物に直害を与えてしまうことはある程度想像できるでしょう。特に、台風の上陸シーズンとなる夏から秋と言えば、まさに収穫前の稔り多い時期。大地に広がるむき出しの稲や野菜が雨に溺れ、風で飛ばされてしまう。せっかく長い時間をかけ苦労して育てた生産物がこれらの被害を受けて全て台無しになると思うといたたまれない気持ちになります。また、地震による停電が、酪農家にとっては搾乳機械の使用不能を意味し、酷い場合は搾乳できずに牛を死なせてしまう事故にまで発展しているという事実を、今回私たちは気づかされたのです。

 

◆下町ロケットが担う役割

作家の池井戸潤氏の原作をドラマ化した「下町ロケット」が2018年の暮れに話題となりました。中小企業と大企業、そしてベンチャー企業が各々の技術力とプライドをぶつけ合い、敵対し、時に手を取り合う姿はヒューマンドラマとして心が震えます。過去の作品ではその名の通り、ロケット打ち上げ事業をテーマとしていましたが、続く作品では医療や農業への技術転用がテーマとなっています。この四半世紀で急成長したIT系大企業が世界の市場やビジネス環境に変革を起こしている事実は広く周知されていますが、小さく、目立たない部品のひとつひとつにも技術の粋を集め、磨き続ける日本の中小企業の存在にスポットを当てた興味深いストーリー構成となっています。

また我が国の政府方針の一つに“農業のスマート化の推進”が挙げられている今、奇しくも今回のドラマが視聴者である国民にその意義を伝える重要な役割を担ったかたちとなりました。

 

◆産業革命と農業

18世紀後半の英国に始まり、これまで度々おきた産業革命により、経済が発展し現代社会は非常に便利になりました。恐らくこれからも、今は思いも及ばない技術革新が引き続き私たちの生活を変えていくことでしょう。最近では「インダストリー4.0」と呼ばれる、IoT技術があらゆるものをインターネットにつなぎ、自動化、効率化していく産業構造の変革に注目が集まっています。この流れが農業の現場でも大きな話題となっているのです。

農業の現場では今、「担い手不足」と「高齢化」が深刻な問題です。複雑で簡単には解決できない課題が絡み合い、このままでは中長期的に農業は維持できません。そこで、「農業のスマート化」の出番となるわけです。無人で動くトラクターや、自動で生育を管理するシステムが一般化していけば、少ない人数で効率的に農産物を収穫でき、従事者の負担を軽減することが可能です。特に北海道のような大規模農家が多い地域でのスマート化に対する期待は大きく、現在でも既にスマート農業の実証試験施設や導入事例の多さは全国一の規模となっています。

振り返れば第一次産業革命は、農地不足での従事者の失業と都市部への人口集中が発端となりましたが、200年以上の時を経て、今度は新たな革命により農地の人手不足を克服せんとしているとは皮肉な話です。

 

◆SDGsで語られる農業

さて、産業革命により確かに社会は便利になりました。しかし一方でその反動による環境破壊や格差拡大といった側面も生まれていることは否めません。早い段階で革命と共に国を発展させたいわゆる先進諸国の富は、この流れに乗り遅れ未だ発展途上段階にある後発諸国の負の上に成り立っています。グローバルな視点に立てば、環境破壊による気候の変動は、自然が多く、農業を主な産業とする国に特に大きな影響を与えています。また、自由市場主義経済での自国第一、自社利益追求型の経営は貧富の差をますます拡大させているのも事実です。最近では官民の間で、SDGs(持続可能な開発目標)推進に積極的に取り組む向きもあるように、世界をより良い方向へ自発的かつ持続的に導く力も求められており、この文脈でも「持続可能な農業の推進」や「農業人材力の強化」という政府の取り組み方針が明示されています。

ここでいったん目線を国内に戻してみると、気候の変動が大きな影響を与えるとされる、“自然が多く、農業を主な産業”とする地域はどこにあたるでしょうか?ここに、JMAが地域活性化事業を展開する目的と意義があるわけです。