コラム 経営の羅針盤

「エンゲージメント」を考える 2019/11/07 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田高志

◆「従業員エンゲージメント」への関心の高まり

このところ、人事の分野で、従業員エンゲージメントへの関心が高まっています。従業員エンゲージメントとは、一般的には、従業員の会社に対する愛着心や貢献意欲を意味しています。
これまで日本企業は社員の愛社精神や組織の一体感が強みと考えられてきました。ところが、米国のギャラップ社をはじめとする様々な機関の調査結果において、日本企業の従業員のエンゲージメントは世界に比べて低水準にあるということが示されています。

高度経済成長期においては、会社の成長・発展とともに、生活も豊かになるということで、企業と社員は、ある意味で運命共同体であったと言えます。昭和世代の方は、スゴロクで出世を競う『人生ゲーム ハイ&ロー』というテレビ番組が記憶にあるのではないでしょうか。また、バブル景気のころには、「24時間戦えますか」というテレビCMが、違和感なく受け止められていたかと思います。

ところが、バブル崩壊後には、企業の成長が伸び悩み、多くの企業でリストラも行われました。また、成果主義型の人事制度の普及もあって、企業と社員の関係はビジネスライクなトーンが強まったのではないでしょうか。
また、長時間労働や過労死が社会問題となり、一方で、ワークライフバランスへの関心が高まり、育児や介護と仕事の両立のために柔軟な働き方を希望する人も増えています。
このように働くことへの考え方、価値観も変わってきています。

そうした中で、昨今の人手不足が重なり、事業の継続にも影響を及ぼしています。人材採用難に加えて、若年層だけではなく、ベテラン社員の転職も増加しており、優秀な人材の獲得・引き留めが大きな経営課題となっています。
加えて、少子高齢化やデジタル技術の革新などの環境変化に対して、生産性の向上やイノベーションの創出が求められています。そのためにも、社員の一層の貢献意欲が不可欠です。

こうした様々な要因が、従業員エンゲージメントへの関心につながっているのでしょう。

◆「エンゲージメント」をどう捉えるか

そもそも、「エンゲージメント」とはどういう意味でしょうか。英語の辞書をみると、「雇用」という意味も出てきますが、「約束」「契約」が最初に挙げられています。エンゲージメント・リングと言うように、「婚約」というも意味もあります。
エンゲージメントの語源は、フランス語のアンガジェ(engager)であり、その名詞形のアンガージュマン(engagement)です。「参加させる、拘束する、巻き込む」という意味です。哲学を学んだ方は、サルトルを思い出されるかもしれません。サルトルは、状況を能動的に引き受け、自らを積極的に巻き込み、拘束するという意味合いで、アンガージュマンという考え方を打ち出しています。
「エンゲージメント」は、人事だけではなく、「カスタマー・エンゲージメント」や「ステークホルダー・エンゲージメント」という形で、マーケティングやCSRの分野でも使われています。顧客や社会の様々なステークホルダーと、どのような関係・つながりをもっていくか、そのために企業として、どのような働きかけをしていくかを問うものです。

参考:『実存主義とは何か(増補新装版)』(サルトル著、伊吹武彦ほか訳/1996年・人文書院)

◆これからの組織と社員の関係を問い直す

このように捉えていくと、「従業員エンゲージメント」の意味も奥深いものに感じられます。
「契約」や「婚約」のように考えると、社員からの企業に対する一方的なエンゲージではなく、両者の双方向の関わりとして考えることができます。つまり、企業側としても、社員に対して、どのようにエンゲージするのかが問われ、企業の理念や価値観と合致しなければ、社員の方からエンゲージメントを破棄することになるでしょう。

一方で、サルトルのアンガージュマンのような意味でとると、社員の側にとって重みが増すような気がします。自ら主体的、積極的に組織に参画していくという姿勢が問われます。
サルトルは、「人間は自由の刑に処せられている」とも述べています。人生100年、Society5.0と言われる時代にあって、様々な選択肢の中から、自分自身の生き方、価値観、職業観、専門性などを勘案しながら、自分なりのキャリアを選択し、組織に参加することが求められるようになっていくのではないでしょうか。

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