コラム 経営の羅針盤

『リスキル革命』~ダボス会議で「2030年までに10億人のリスキル」が提唱 2020/02/06 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田高志

◆50周年を迎えたダボス会議

今年も1月21日から24日にかけて、スイス・ダボスにおいて、世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)が開催されました。

50回目を迎えた今年の会議は、「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」という統一テーマのもと、下記の7つのテーマが取りあげられ、3000人もの参加者が世界中から集まり、200以上のセッションに800人以上のスピーカーが登壇しています。
・恩恵をもたらすテクノロジー
・よりよい企業
・地政学を超えて
・社会と仕事の未来
・健康な未来
・地球を救う方法
・より公平な経済

世界経済フォーラムのウェブサイトにおいて多くのセッションの映像を視聴することができ(一部は日本語の翻訳付き)、ダボス会議の一端に触れることができます。
https://jp.weforum.org/events/world-economic-forum-annual-meeting-2020/programme

特に今年は、グレタ・トゥーンベリさんへの注目が集まったように、気候変動や環境問題などが大きく取りあげられたようです。また、行き過ぎた株主資本主義を見直した「ステークホルダー資本主義(stakeholder capitalism)」についての議論もされています。

こうしたテーマも、これからの社会や企業経営にとって極めて重要であることは言うまでもありませんが、上記7テーマの1つである「社会と仕事の未来」に関連して、非常に興味深い発信がされていました。

◆2030年までに10億人のリスキルをめざす

「社会と仕事の未来」に関連して、総会2日目に、『リスキリング革命(Reskilling Revolution)』が発表されました。プレスカンファレンスには、米国トランプ大統領の補佐官でもあるイヴァンカ・トランプ氏もパネリストの一人として登壇しています(この模様も上記のウェブサイトで視聴することができます)。

『リスキリング革命』は、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブです。この実現に向けて世界経済フォーラムでは、プラットフォームを構築。

ブラジル、フランス、インド、パキスタン、ロシア連邦、アラブ首長国連邦、米国といった各国政府が人材育成に関する政策を実施するとともに、PwC、セールスフォース、マンパワー・グループ、インフォシス、リンクトイン、コーセラ、アデコ・グループといった企業がパートナーとして参画し、資金や教育プログラムを提供することになっています。

わが国においても、経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ちあげ、厚生労働省の「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」と連携して助成金を出す仕組みをつくり、これからの時代に必要な新しいスキルの獲得を支援しています。

今回のダボス会議での発表を見ると、こうした社会や産業の変化に対応した人材再教育が、世界的にも大きな問題となっており、かつ、具体的な取り組みが広がっていることが、よく分かります。

さらに、日本においては、経団連が発表した春季労使交渉の経営側の指針となる経営労働政策特別委員会報告において、職務を明確にして働く「ジョブ型」雇用の拡大が打ち出されています。加えて、雇用延長の議論もされていますので、人生100年とも言われる時代におけるスキル獲得やキャリア形成のあり方を、産業界あるいは社会全体として再構築していく必要があります。

◆リスキル時代に求められるキャリア自律

上記でご紹介したイニシアチブとあわせて、世界経済フォーラムは、“Jobs of Tomorrow: Mapping Opportunity in the New Economy”というレポートを発表しています。
https://www.weforum.org/reports/jobs-of-tomorrow-mapping-opportunity-in-the-new-economy

このレポートでは、今後、どのような産業や職業において雇用増加が見込まれるか、どのようなスキルが重要となるかの分析がされています。

特に興味深いのは、将来、需要の高まる職業として、データサイエンスやAI、クラウドコンピューティングといったデジタル技術に関わるものと同時に、医療やホスピタリティ、健康といったケア・エコノミーや、マーケティングや営業、人事など、「人」に関わる職業も必要となるとされている点です。

いかにAIの技術が進んでも、ヒューマンタッチの部分は簡単には代替されないということのようです。

一方で、レポートでは、そうした職業に必要とされるスキルの分析もされていますが、マーケティングや営業、人事といった職業においても、デジタル・リテラシーやSNSの活用などが上位にあげられています。これからの時代においておは、デジタルとヒューマンの両方に関わるスキルが必要となっていくということがよくわかります。

上述のとおり、産業界あるいは社会全体としてリスキルを促すための仕組みをつくっていくこともさることながら、個人一人ひとりにとっても、将来を見据えて、自分自身のスキルをどのように磨いていくか、より自律的なキャリア形成が大切となっていくといえるでしょう。