コラム経営の羅針盤

技術英語に学ぶ「コミュニケーションのツボ」~3つのC:Correct, Clear, Concise 2020/03/17 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田高志

◆技術英語の「3つのC」


日本能率協会のグループ法人に公益社団法人日本工業英語協会がある。
我が国の主要産業であった工業の国際化が進むなか、科学技術に関する英語の正しい理解と普及を目指して1980年に設立された団体で、技術英語検定試験や各種セミナーの開催等を行っている。
この技術英語の基本となるのが、以下の「3つのC」である。

① Correct(正確に)
② Clear(明確に)
③ Concise(簡潔に)

技術英語、とりわけマニュアルや仕様書、特許出願文書、論文などの科学技術に関する英語文書においては、間違いは事故の原因ともなりかねないため、当然ながら「正確さ」が求められる。加えて、誰が読んでも同じ内容として理解されるように、曖昧さのない「明確な」ものとなっていること。そして、読み手が読みやすく、理解しやすいように、「簡潔な」表現となっていることが不可欠である。こうしたことから、「3つのC」が技術英語の基本となるのである。

一方で、これらは必ずしも技術英語文書に関わることではなく、コミュニケーション全般にも当てはまると考えられるのではないだろうか。

◆多様化・デジタル化・グローバル化の時代だからこそ「3つのC」を

昨今、企業においてはダイバーシティ&インクルージョンへ(D&I)への関心が高まり、多様な人材が活躍できる職場づくりが進められている。こうしたD&Iを進めていくためには、相互の理解を深めていくことが重要であり、コミュニケーションはその土台となると言える。

例えば、世代をとってみても、若者言葉が理解できなかったり、同じ言葉でも意味が変わっていたりと、言葉遣いやコミュニケーションにおける苦労はますます増えつつあるだろう。あるいは、外国人社員が増えてくると、例えば、多義的な単語、謙譲語、和製英語といった日本語の特徴が意思疎通の阻害要因にもなりうる。さらには、社外の関係者との協働の機会が増えていくなかで、社内独特の用語や言葉遣いが伝わらなかったりすることもあるだろう。

もう一つ、デジタル化の進展もコミュニケーションに影響を及ぼす。最近はパソコンからのメールよりも、スマホでのチャットによるコミュニケーションも増えてきており、短い表現が誤解を招いたり、誤変換が生じる可能性が高まっている。また、間違えた情報がSNSで拡散していくという現象も頻繁に出てきている。スピード重視のデジタルの時代には、これまでのように正確・丁寧な文章表現にこだわる必要もないという意見もあるかもしれないが、いたずらに誤解やトラブルを招き、信用を失うようなことは避けるべきだ。

加えて、グローバル化の進展への配慮も必要だ。そもそも日本語は「ハイ・コンテクスト」と言われ、「あうんの呼吸」というように、背景や文脈を共有し合っている者どおしでなければ伝わりにくい性質を持っている。昨今のように、SDGsやESG、気候変動対策など、国際的な枠組みが企業経営にも大きく影響するようになるなか、企業には、これまで以上に「アカウンタビリティ(説明責任)」が求められるようになっている。国際社会に対して、より一層、分かりやすい情報発信をしていくことが重要である。

以上、述べてきたように、多様化・デジタル化・グローバル化が進む中で、コミュニケーションのとり方には、これまで以上に注意が必要となっている。技術英語の基本となっている「3つのC」、すなわち「正確に」「明確に」「簡潔に」情報発信をしていくことが不可欠ではないだろうか。

(参考)
中山裕木子『技術系英文ライティング教本』(日本能率協会マネジメントセンター, 2009年)