コラム 経営の羅針盤

求められる社会や組織の「レジリエンス」 2020/05/13 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 近田高志

新型コロナウイルス感染拡大は、世界全体に大きな影響を及ぼしています。罹患された方々にお見舞い申しあげるとともに、医療従事者の方々をはじめ、社会を支えていらっしゃる皆様に、この場を借りて心から感謝申しあげます。

◆変化に対応できる組織の条件

さて、依然として先行き不透明な状況が続いているなかではありますが、この機会に、その先の社会や経営、組織のあり方を考えてみたいと思います。
今回のコロナ禍のみならず、気候変動に伴う自然災害の多発や、AIやデータサイエンスなどの技術の進化に伴う破壊的イノベーションの出現など、社会は大きな変化に直面し続けています。想定外の突発的な変化もあれば、長期にわたるじわじわした変化もあります。

こうした環境変化にいかに適応し、生存していくか。これは、企業経営の永遠の課題であると言えるでしょう。
こうした変化に適応できる組織のあり方として、「レジリエンス」が注目されています。「弾力性」や「回復力」を意味する英語です。2013年1月の「ダボス会議」においても、「レジリエント・ダイナミズム」が統一テーマとして掲げられました。グローバルなレベルで様々な事象がネット―ワークで結び付き、相互に影響し合うことによって、変化の振れ幅が大きくなるなか、リスクに対処しながら成長を実現するためには、レジリエンス(弾力性)とダイナミズム(活力)の両方が必要であるということでしょう。

◆レジリエントな社会や組織に必要な多様性・冗長性

このレジリエンスに関して、幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子氏は、著書『レジリエンスとは何か』(東洋経済新報社、2015年)の中で、レジリエンスの高い社会や組織となるための要素の一つとして、「多様性」を挙げています。また、ある種の「冗長性」や「重複」といったものも必要であるとも指摘しています。

多様性によって、変化に対する様々な選択肢がもたらされますし、余裕があるからこそ変化を受け止めて対処することができます。とりわけ経営において、効率性は重要なことではありますが、行き過ぎると、変化適応力を失いかねないのです。

◆問われる一人ひとりのアイデンティティ

そこで重要となる「多様性」。最近では、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」として、多様性を尊重するとともに、組織として包摂していくという考え方が主流です。
このD&Iを推進していくためには、互いの違いを認め合うことが必要となりますが、その前提として、一人ひとりが自らのアイデンティティを明確にすることが不可欠ではないかと思います。「何のために働くのか」「自分が大切にしていることは何か」といったことを一人ひとりが考えたうえで、それをチームの仲間と対話することが重要となります。

これまで組織の同質性を強みとして、「あうんの呼吸」が通じてきた日本企業では、一人ひとりのアイデンティティや価値観といったものは、マネジメントにおいて、あまり重視されず、職場の会話にも出てこなかったかもしれません。
しかし、組織のレジリエンスを高め、これからの大きな変化に対処していく組織へと進化していくためには、この際、考え方を転換していくことが必要ではないでしょうか。

今回ご紹介したレジリエンスやD&Iについては、日本能率協会が発行している隔月情報誌『KAIKA』の7月号で詳しく取りあげる予定ですので、どうぞ、ご期待ください。

ところで、新型コロナ感染予防の一つとして、「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」をとろうということになっています。もちろん、飛沫感染等を防ぐために、互いの距離をとることは不可欠なことです。ただ、「社会的」という表現に少し違和感をおぼえます。

重要なのは、「物理的」「空間的」な距離を空けることであって、むしろ、こうした時だからこそ、「社会的」「心理的」な距離が大切になるのではないでしょうか。WHOでもPhysical Distansingという表現を用いてるようです。また、上述したレジリエンスの考え方では、社会的な関係性が重視されています。
今回の新型コロナへの対応を通じて、あらためて、自社あるいは自身がどのように周囲と繋がっているのかを振り返ってみてはいかがでしょうか。