コラム経営の羅針盤

競争力向上に資するための研究・開発の課題(前編) 2020/08/26 コラム

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 近田高志

◆コロナ禍が迫る事業構造の見直し

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業経営にも大きなインパクトを与えています。当面の業績への影響にとどまらず、中長期的な事業構造の見直しを迫っています。
日本能率協会が毎年実施している経営課題調査においても、今年の調査の現時点での回答結果を見ると、「事業基盤の強化・再編」を経営課題として挙げる比率が上昇しています(※最終的な調査結果については、9月以降に公表する予定です)。
事業構造の見直しに関しては、昨年度の調査においても、今後5年程度で事業構造を変える必要があるとする企業が4割を超え、10年後については実に8割近くの企業が変革が必要であると答えていました。デジタル技術の進化によって、既存の事業構造を破壊するような新しいビジネスモデルが出現してくるなか、多くの経営者が事業変革の必要性を認識していましたが、コロナ禍がさらに追い打ちをかけているという状況と言えます。

◆競争力を高めるために求められる研究・開発のあり方

事業構造を見直していくうえでは様々な要素を勘案する必要がありますが、今回は、事業の根幹をなす重要な要素である技術力に着目し、競争力を高めるための研究・開発のあり方を探りたいと思います。
日本能率協会では、2020年1月から2月にかけて、全国の主要企業約2,300社の研究開発部門のご責任者を対象に、研究・開発の施策の取り組み状況や課題について調査を実施。244社からの回答をいただきました。
調査では、研究・開発の成果状況に関わる以下の3つの設問への回答結果をもとに、回答企業を「当てはまる」傾向の強い上位2割の「高成果群(49社)」と、「当てはまらない」傾向にある下位2割の「低成果群(54社)」、中間層の「中成果群」に分けて、施策の取り組みや、組織の状況等について比較分析を行いました。

<グルーピングに用いた設問>
① 研究・開発部門は、経営トップからの期待に応えられているか
② 研究・開発部門は、自社の中長期的な競争力の向上に寄与できているか
③ 自社の技術力は、競合企業よりも優位な状況にあるか

以下、この分析から見いだされた「高成果群」の特長をご紹介し、競争力向上に資する研究・開発の課題を明らかにしていきたいと思います。

◆積極的な研究・開発投資

まず、「高成果群」に見られた特長の一つは、積極的に研究開発投資を続けているという点です。
調査では、「中長期的な競争力を維持していくために十分な研究開発投資が行われているか」を尋ねていますが、「高成果群」では「そう思う」との回答が75.6%であるのに対し、「低成果群」では22.3%に留まるという結果が見られました。
これを裏付けるように、3年前と比べた研究開発全体に対する投資の状況について、「高成果群」では51.0%が「増加」と答えた一方で、「低成果群」では「増加」は14.8%に留まり、「横ばい」が64.8%と多数を占めています。また、回答時点における3年後の研究開発投資の見通しについても、「高成果群」では「増加」が59.2%であるのに対し、「低成果群」では「増加」は35.2%となっています。
コロナ禍の影響により、今後の研究・開発投資については不透明感が高まっていると思われますが、競争力を維持していくためには、相応の研究・開発投資が必要であるということが、データからも見ることができました。

◆経営戦略と連動した研究・開発

調査では、研究・開発部門の重要課題についても尋ねています。複数の選択肢を列挙し、重要と思われるもの3つを選んでいただきました。
その結果、「高成果群」においては、「経営戦略・事業戦略との一貫性ある研究・開発テーマの設定」「研究・開発とマーケティングの連携」について、「低成果群」に比べて、より重視度が高い傾向にあることが分かりました。
また、別の設問で研究・開発部門の状況について尋ねたところ、「高成果群」においては、「経営トップは、研究・開発部門の方針や活動に理解を示している」について、より当てはまるとする比率が高いという結果も見られています。
経営トップが、研究・開発の重要性を認識し、経営戦略や事業戦略と結び付けていくことが重要であるということが確認できたのではないかと思います。

(後編に続く)