コラム経営の羅針盤

メタ認知 2021/03/03 KAIKA

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所

近田高志

◆「メタ認知」とは

「メタ認知」という心理学用語があります。「メタ(meta)」は、「高次の」とか「より上位の」を意味する接頭語です。したがって、「メタ認知」とは、「認知についての認知」ということになります。自分自身や他者が何かを認知している状態を、客観的に見つめることとも言えるでしょう。

メタ認知には、メタ認知的知識とメタ認知的活動があるとされています。メタ認知的知識は、人の認知のあり方や傾向などの特性に関する知識、課題に応じた対処の仕方に関する知識、課題解決の仕方に関する知識の3つに分類されています。

もう一つのメタ認知的活動は、認知の状態を予想したり、点検したり、評価したりするメタ認知的モニタリングと、認知の状態について目標・計画を立てたり、状況に応じて修正するメタ認知的コントロールの2つに分類されています。

◆VUCAの時代に一層重要となるメタ認知

VUCAとも言われるように、私たちを取り巻く環境の変化が激しく、複雑さがましている時代において、変化を察知し、柔軟に対応していくためには、こうしたメタ認知が一層重要になっているのではないでしょうか。

情報に対する感度の持ち方や、情報収集の仕方がこれまでどおりであっては、周囲の変化を見落としてしまうかもしれません。また、物事の変化を認知する際に、従来のアプローチで評価・判断すると、変化の本質を見誤ってしまうかもしれません。あるいは、これまで経験したことが無く、かつ、答えが一つでないような課題に対しては、これまでとは違った視点や考え方を適用することが必要となることもあるでしょう。

また、変化に対応し、新たな発想を生み出していくうえで、多様性を活かすことが不可欠となっています。多様な考え方を理解し、尊重していくためには、自分自身の認知に偏りがないかを意識することが必要です。こうした観点からも、メタ認知が重要となると言えます。

さらに、変化する周囲の事象や多様な視点に対する自己の認知をメタ認知することで、新たな気づきや発想、解決策が得られるようになり、学習や成長に結びつけることもできます。

以上のように、VUCAの時代において、変化に柔軟に適応し、変化を通じて自ら学習・成長していくためには、周囲の状況への感度を高め、事象に対する自分自身の認知の仕方が妥当であるかを確認し、必要に応じて見方や考え方をコントロールするというメタ認知能力を高めることが、一層重要となっているのです。

◆メタ認知のマイナスの効果

メタ認知によって、自分自身の認知の状態をモニタリングし、コントロールできるということ分かりましたが、一方で、メタ認知にはマイナスの効果もあります。

例えば、他者との会話の際に、相手の反応を認知することに過度に意識が向かってしまうと、自分らしいコミュニケーションをとることが難しくなるでしょう。あるいは、周囲の状況を察知し、それに過度に順応させて自分の認知をコントロールしようとすると、自己主張したり、異論を言いにくくなったりしてしまうかもしれません。いわゆる忖度や同調圧力につながります。

適度に自身の認知状況をモニタリングし、コントロールできるようなメタ認知能力が必要となります。

 

◆メタ認知能力を高めるためには

それでは、メタ認知能力を高めていくには、どうしたらよいか。まずは、メタ認知を意識することでしょう。自分がどのような思考をしているのか、自分の認知や感情といったものが、どのような状態にあるかに注意を向けることです。

また、自分と異なる意見をもった相手と会話や議論を行う際に、相手の認知状況や、相手の意見に対する自分の認知状況をモニタリングすることも有効でしょう。さらに、他者と対話した後に、コミュニケーションのとり方がどうであったかをフィードバックし合うことも、メタ認知におけるモニタリングやコントロールの能力を高めることにつながると言えるでしょう。

こうしたメタ認知の捉え方は、個人一人ひとりについてだけではなく、組織としての認知のあり方についても応用することができるのではないでしょうか。組織としての認知のあり方を、組織としてメタ認知していく。VUCAの時代においては、組織としてのメタ認知能力を高めていくことが一層重要となるのです。

 

参考:『メタ認知で<学ぶ力>を高める』三宮真智子(2018年、北大路書房)