コラム 経営の羅針盤

「価値観(バリュー)の明確さ」と「組織へのコミットメント」 2021/04/12 人材

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所
近田高志

4月になって、新入社員の配属や人事異動などによって、職場に新たなメンバーが加わっていることかと思います。これまでと違った視点や経験をもった新たなメンバーが加わることは、職場の多様性を高めることにつながり、組織を活性化するという観点から重要なことです。
一方で、せっかく多様な人材が集まっても、相互の関係性が深まらなければ、組織の力を高めることに結びつきません。「ダイバーシティ&インクルージョン」と言うように、多様性を受け入れ、包摂することが大切です。
多様性を活かすとともに、一人ひとりの職場への参画意欲を高め、いかにして、チームとしてのパフォーマンスを向上していくか。今回は、「価値観(バリュー)」と「組織へのコミットメント」の関係から、この点について考えたいと思います。

◆「個人/組織の価値観(バリュー)の明確さ」と「組織へのコミットメント」の関係

「バリュー(Value)」とは、文字通り「価値」のことです。何に価値をおいているか、何を大切であると考えているかということで、ここでは、「価値観」と捉えることにします。
「価値観が合う/合わない」という言い方をすることがあるように、価値観は個人一人ひとりが持っているものです。一方で、企業のなかには、社員全員で大切にしたい行動規範として、「バリュー」を明文化しているところもあります。個人だけではなく、組織としての「価値観」も存在するわけです。
研究によると、個人や組織の価値観の明確さが、所属する組織へのコミットメントに影響を及ぼしていることが確認されています。

以下の図は、横軸に個人としての価値観が明確になっているかどうか、縦軸に組織としての価値観が明確になっているかどうかで区分して、それぞれの象限に属する人の「組織へのコミットメント」の度合いがどうなっているかをスコアで示しています。スコアが高い方が、組織へのコミットメントの度合いが高いことを意味しています。


まず、右上の象限にあたる、個人と組織の価値観のいずれもが明確であるときに、組織へのコミットメントが高くなっていることは、当然のことと理解できるかと思います。自分が大切にしていることと、組織が大切にしていることが明確になっているわけですから、その組織に所属している理由がはっきりし、積極的に関わろうという意識が高くなるわけです。逆に、左下の象限の、個人と組織の価値観の両方ともが明確でないとき、組織へのコミットメントが低くなることも、やはり当然のことでしょう。なぜ、その組織に所属しているのかが曖昧になっているからです。

問題は、個人と組織の価値観のいずれかが明確で、もう一方が曖昧な場合についてです。結論を言うと、図に示されているとおり、組織としての価値観が明確でなくても、個人としての価値観が明確であれば(右下の象限)、組織へのコミットメントが高くなっています。逆に、組織としての価値観が明確であったとしても、個人としての価値観が曖昧だと(左上の象限)、組織へのコミットメントが低くなっていることが分ります。

つまり、一人ひとりの組織へのコミットメントを高めるためには、組織としての価値観を明らかにすることだけでは不十分で、個人としての価値観を明確にしなければならないということになります。
では、組織の価値観を明確にせずとも、個人の価値観だけを明確にすればよいのかというと、私はそうではないと思います。確かに上記の研究では、そのような場合のコミットメントの度合いも高くなっていますが、組織の価値観が曖昧だと、その組織に属している理由が薄くなり、徐々にコミットメントの度合いが低下するのではないかと考えるからです。

◆個人の価値観を明確にし、共有するためには

以上のように、個人の価値観を明確にすることが、一人ひとりの組織へのコミットメントを高めるうえで、重要であることをご覧いただきました。
それでは、個人の価値観を明確にしていくためには、どうしたらよいでしょうか。日本能率協会が実施している「KAIKA Awards」の検討委員に就任いただいている一般社団法人チームスキル研究所の代表理事である田中信氏は、コラム(*)のなかで、「価値観ワーク」という方法を紹介されています。職場のメンバー一人ひとりが自分自身の価値観を明らかにするとともに、職場メンバーで互いの価値観を共有し合い、さらに、各自の価値観を共有した体験を振り返るという内容になっています。
こうした体験を通じて、自分自身の価値観を考えるだけではなく、職場のメンバーが多様な価値観を持っていること、互いに違いがあることを気づく機会ともなるそうです。冒頭に述べた、ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも、非常に効果的な方法と言えるでしょう。

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日本のカルチャーのなかでは、自分自身の価値観を振り返ったり、ましてやそれを他者と話し合ったりするような機会は、あまり無いことと思います。しかし、「人生100年時代」とも言われ、キャリア形成のあり方が多様化する今日においては、あらためて、自分自身が大切にしている価値観を確かめることが、組織にとってだけではなく、一人ひとりにとっても、これまで以上に大切になっているのではないでしょうか。

*「価値観ワーク」を紹介いただいたコラム
「チームでパフォーマンスを上げる職場づくり~第3回:メンバーを知る」
https://kaikaproject.net/column/teamskill03/