コラム経営の羅針盤

2つの「VUCA」 2021/05/12 人材

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所
近田高志

◆軍事用語として生まれた「VUCA」

「VUCA」という言葉が、広く使われるようになっています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字を並べたものです。この言葉は、もともと、1990年代に軍事用語として生まれたものです。それまでの国家間による戦争から、いつどこで発生するかも分からない同時多発テロの時代へと変化するなか、そうした軍事情勢を表す言葉として用いられるようになったそうです。
それが、2010年以降になってから、ビジネスの世界においても用いられるようになりました。

デジタル技術をはじめとするテクノロジーの急激な進化や、主要国における政治情勢の不安定化、それに伴う国際的な枠組みの変化。あるいは、最近では、気候変動リスクの高まりに加えて、世界的な新型コロナウイルスの蔓延と、まさにビジネスを取り巻く環境は、「VUCA」と言える状況にあります。

◆もう一つの「VUCA」

これに対して、もう一つ別の「VUCA」という言葉があります。米国のInstitute for the Futureのボブ・ヨハンセン氏が提唱しているもので、こちらは、Vision(ビジョン)、Understanding(理解)、Clarity(明確さ)、Agility(俊敏さ)の頭文字を並べたものとなります。
これらのポジティブなVUCAによって、「ビジョン」をもって「変動性」を、「理解」をもって「不確実性」を、「明確さ」をもって「複雑性」を、そして、「俊敏さ」をもって「曖昧さ」を克服することができるという考え方です。

Volatility(変動性)    ←  Vision(ビジョン)
Uncertainty(不確実性) ←  Understanding(理解)
Complexity(複雑性)   ←  Clarity(明確さ)
Ambiguity(曖昧さ)    ←  Agility(俊敏さ)

Foresight(予見)、Insight(洞察)、Action(行動)のサイクルを回す。すなわち、未来を予見して、戦略を洞察し、いち早く到達するための行動を起こしていくことよって、より良い未来を創っていくという考えが背景にあります。

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依然として、新型コロナウイルスの影響もあって、先行きを見通しにくい状況が続いています。しかし、嵐が過ぎ去るのを待ったとしても、以前と同じ状態に戻るとは限りません。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」(Alan Key)という言葉もあります。ポジティブな「VUCA」によって、能動的に未来を創り出していくことが求められているのではないでしょうか。

参考:『Leaders Make the Future』Bob Johansen