コラム 経営の羅針盤

「組織開発」は誰の担当か? 2021/06/10 KAIKA

一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所
近田高志

◆「組織開発」とは

経営やマネジメントに関わる用語で、「組織開発」という言葉があります。文字通り、組織の能力を開発することを意味します。人材を開発する「人材開発」の方は一般的に用いられていますが、組織開発が注目されるようになったのは、この10年くらいではないでしょうか。

組織開発には、様々な定義がなされています。例えば・・・

「計画的で、組織全体を対象にした、トップによって管理された、組織の効果性と健全さの向上のための努力であり、行動科学の知識を用いて、組織プロセスに計画的に介入することで実現される」
(Bechard, 1969)

「組織の問題解決過程や、再生過程を改善するための継続的な努力である。その特徴は、とりわけ行動科学のセオリーやテクノロジーの助けを借りて、組織文化を効果的かつ協働的なものにしていくことを通して、目的を達成することである」
(French & Bell, 1973)

「組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-Renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」
(Warrick, 2005)

いずれにせよ、個人に対して働きかけを行い、そのパフォーマンスを高める人材開発と同様に、組織開発とは、組織に対して何らかの働きかけを行うことによって、そのパフォーマンスを向上させていくことである言えるでしょう。
なお、組織開発の歴史的背景や理論的系譜については、中原淳教授と中村和彦教授による『組織開発の探究』(ダイヤモンド社、2018年)に詳細にまとめられていますので、ご一読をお勧めします。

◆あらためて重要となっている「組織開発」

日本における組織開発の発展は、1960年代に「感受性訓練(ST:Sensitivity Training)が広まったことが契機となっています。しかし、過剰な自己開示を求める手法によって、精神的に追い詰められてしまう人や、さらには、自殺者までもが出るなどして社会問題となり、その後、下火になりました。
一方で、70年代以降、職場における小集団活動や職場ぐるみ学習が企業各社に広まっていったものの、「組織開発」という呼び方は、次第に使われなくなっていきました。

しかし、2000年代以降に、あらためて、組織開発への関心が高まり出しました。バブル経済の崩壊後、多くの企業が成長の道筋を見失い、事業の売却や統廃合が進みました。また、成果主義型の人事制度が導入されたり、雇用形態が多様化したりすることによって、組織内のコミュニケーションが不活性化し、「社員の孤立化」や「ミドルマネジャーの疲弊」といった問題が顕在化してきました。
こうした課題に対処し、前向きな挑戦ができる組織を取り戻すために、あらためて、組織開発が注目されるようになったわけです。ポジティブ心理学をベースにした「AI(アプリシアティブ・インクアイアリー)」や、オープンな雰囲気でアイデアを共創する「ワールド・カフェ」といった、様々な手法も普及しました。

さらに、今日の企業を取り巻く課題を考えると、組織開発は一層重要になっているのではないでしょうか。DXを含め、企業がイノベーションを実現していくためには、これまでにない発想や行動が必要となり、社内外のオープンな協働が不可欠となっています。働き方を改革し、生産性を高めていくためには、業務のプロセスを見直し、仕事の流れを効果的にしていく必要があります。また、事業を通じた社会課題の解決を通じた持続的な価値づくりへの関心が高まっていますが、そのためにも、社員を巻き込みながら、自社の経営理念や存在意義、目的(パーパス)を再構築していく必要があります。あるいは、ダイバーシティを活かした経営を進める一方で、社員一人ひとりの組織への参画意欲(エンゲージメント)を高めていくことも、大きな経営課題となっています。

これらのように、企業の未来を創り出していくためにも、あらためて、人材とともに組織に着眼し、そのパフォーマンスを高めていくための取り組みである「組織開発」が重要となっています。
日本能率協会が、2012年から、これからの経営・組織づくりのあり方として、「KAIKA」を提唱し続けているのも、こうした背景があります。

https://kaikaproject.net/

◆「組織開発」は、誰の担当業務か?

このように重要度の高まっている「組織開発」ですが、それでは、誰が/どの部門が担当するべきことなのでしょうか。

2012年1月に日本能率協会が実施した『企業の組織力・活性化に関する実態調査』において、組織力向上に関わる課題に対応する担当部門がどこかを尋ねたところ、「経営企画部門」が38.1%、「人事部門」が19.8%、「事業部門ごと」が18.9%、「都度組成するプロジェクトチーム」が5.6%である一方、「組織開発部門」は0.9%という結果でした。

調査時点では、まだ組織開発を担当する部門は、ほとんど存在していない状況でしたが、最近では、「人材・組織開発部」といった部門名や、人事部門のなかに「組織開発担当」という役割を持っている企業が増えていると実感されます。また、事業に寄り添い貢献する人事担当者の役割として、「HRビジネス・パートナー(HRBP)」といった呼び方も広がりつつありますが、HRBPの主要な役割は、担当する事業部門の組織開発であると言う方もいらっしゃいます。

一方で、「組織開発」は、組織開発担当部門だけで実行できるものではありません。組織に関わる様々な部門、職位の方々が一体となって、取り組む必要があります。ここで、それぞれの役割を整理してみます。

(1)経営者
まず、組織開発において、第一に重要なのは、経営者の関与です。企業が組織として成果を出していくためには、会社が目指す目的やビジョン、戦略立案を明らかにするのと同時に、それを実行していくための組織と人材を整える必要があります。むしろ、事業に関する方策と、それらを実現するための組織・人材の方策を統合したプランが経営戦略であると言っても過言ではないでしょう。自社がどのように組織開発に取り組んでいくか、経営トップの意志が不可欠となります。

(2)経営企画部門
中長期的な事業計画の立案と、その進捗管理を行い、サポートすることが、経営企画部門の役割です。そして、その実行のための方策として、組織のデザインを行うこともあるでしょう。しかし、組織図を書けば、それで、戦略が実行されるわけではありません。組織が効果的に機能しているかに目を配り、然るべき対処をしていくことも、経営企画部門の重要な役割と言えます。

(3)人事部門
人材や組織についての課題に中心的に取り組むのは、やはり人事部門です。組織開発に関する具体的な施策の立案や実行のサポートを担うべく、人事部門が果たす役割をより明確にしていくべきです。「人材・組織開発部」といった名称を用いることは、その証左となるでしょう。
また、事業戦略を実行していくうえでの組織課題を把握し、経営者や事業責任者、各職場の管理職、社員一人ひとりに働きかけながら、組織のパフォーマンスを高めるための施策を立案・実行していくことができるよう、組織開発担当者やHRBPには、自社のビジネスに対する理解とともに、心理学や統計学などの専門知識、コンサルティングスキルや具体的な組織への介入手法を身に付けていくことが不可欠となります。

(4)広報部門
広報部門の役割は、経営や事業活動に関するメッセージを発信していくことですが、社内に対するインターナル・コミュニケーションの重要性がますます高まっています。経営トップのメッセージ、組織の方針や、社員一人ひとりに期待される行動指針、各職場での実践例や成功談などを、効果的に社員に伝え、共有することで、組織のパフォーマンス向上に貢献することが期待されます。
また、会社の目的やミッション、あるいは、組織の活性化の取り組みや社員の活躍に関する情報を対外的に発信していくことも、ブランディングという観点から重要になってきます。

(5)各職場のマネジャー
「組織」とは、概念的な存在かもしれませんが、社員一人ひとりが集まる「職場」となると、リアルな存在となります。組織開発が実行される現場は、職場であるとも言えるでしょう。職場マネジャーは、これまでも、社員一人ひとりの人材開発には関心をもち、対処してきたことと思いますが、チームワークやコミュニケーションの活性化を通じて職場のパフォーマンスを高めたり、他部署との連携を円滑にしたりするなど、組織開発の観点からのマネジメント行動をとることが、今後、一層重要となります。

(6)組織の一人ひとり
そして、最後に大切なのは、組織の社員一人ひとりの関与です。確かに会社から雇用され、与えられた職務を遂行する立場にあるかもしれませんが、組織を形成して、社会や顧客にとっての価値を生み出すのは、組織の一人ひとりの活動の集積にほかなりません。自分の担当業務が、会社全体としての目的とどうつながっているのか、どうしたら、社会や顧客にとっての価値を創り出していくことができるのか、一人ひとりが自分ごととして考えられるようになることが重要です。そうすることによって、個々人が仕事の働きがいが感じられるようになり、組織に主体的に参画している(エンゲージしている)状態が実現できるとも言えます。

◆組織が持続的に成長していくために

以上、今回は、あらためて、「組織開発」について考察しました。組織は、概念的なものであり、様々な人が複合的に関わり合うものであるがゆえに、組織に関する課題は存在しつつも、その解決を誰が対処するのかが、曖昧になりがちです。また、日本的な社会風土のなかでは、何となく人が集まると、「みんな」という感覚で、自然発生的に組織が形成される側面もあります。
しかし、組織を取り巻く様々な変化に能動的に対処し、自分たちが実現したい目的に向かって、組織としての成果を生み出し、持続的に成長していくためには、意図をもって組織を開発していくことが、これまで以上に重要となるのではないでしょうか。
人の体が、様々な細胞が集まって、様々な器官があり、神経や循環器系によって結び付けられ、あるいは、各細胞に組織の設計図であるDNAがあって、総合的に成り立っているように、企業組織も社員一人ひとり、各部署、それらをつなぐコミュニケーション経路や情報システム、さらには、共通基盤となる経営理念や行動規範といったものによって成り立っていると言えます。身体が健全に機能するようにバランスを維持し、不調があるときには、原因を探って対処することができるのと同じように、企業組織も健全な機能を維持するための働きかけを行うことができる。そう考えると、組織開発は、極めて具体的な取り組みとなるとも言えるでしょう。