変化への適応力とKAIKA 2020/12/04 KAIKA Tweet
一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 近田高志
◆求められる変化への能動的な適応
少子高齢化が着実に進行する国内市場、グローバルな企業活動の広がり、デジタル技術の飛躍的な革新。温室効果ガス削減や環境問題への対処、SDGsへの取り組み。そして、コロナウイルスの感染拡大。企業経営が今日ほど大きな変化の波にさらされている時代はないでしょう。
日本企業は、これまでにも、繰り返される景気変動や、ニクソンショックやオイルショック、長期的な円高の進行、ネット革命、リーマンショックなど、様々な変化に対処してきました。
しかしながら、今日のように変化が激しく、VUCAとも言われる時代にあっては、受動的ではなく、より能動的に変化に適応できる組織づくりを進めていくことが不可欠となります。
日本能率協会では、毎年、企業経営者の方々を対象とした経営課題調査を実施していますが、2020年7-8月に実施した今年度の調査では、こうした問題意識のもと、「能動的に変化に適応できる組織の条件」を探ることを特集テーマに設定し、分析を行いました。
◆能動的に変化に適応できている組織に見られた特長
調査では、まず、回答企業(532社)に対して、これまでの変化への適応状況を尋ねました。そして、その回答結果をもとに、変化への適応度の高いグループ(高位群:59社・11.1%)、中程度のグループ(中位群:394社・74.1%)、低いグループ(低位群:60社・11.3%)に区分しました。
そのうえで、能動的に変化に適応できる組織の条件の仮説として設定した、経営方針や組織風土、人材マネジメントなどに関する設問への回答について、各グループの傾向を比較し、特に、高位群と低位群のギャップの大きい項目を抽出しました。
詳細の分析結果については割愛しますが、結論として導き出された「能動的に変化に適応できる組織」の特性は以下のとおりでした。
組織としてのアイデンティティを確立する
- 社員一人ひとりが自身の働く目的や価値観を確認し、職場のメンバー等と共有するような場が設けられている
- 全社的な経営理念や経営方針、基本的な戦略と、各部門の戦略や活動内容は十分に連動している
- 社員の多くは、自分の担当業務が経営理念や経営方針、基本的な戦略と結びついていることが実感できている
- 多くの社員は、自分の担当する仕事について、社会的に意義のあるものとして捉えようとしている
高度な自律性を涵養する
- 社員の多くは、自分に期待される役割や行動を明確に理解している
- マネジャーの多くは、部下が自律的に考え行動することを奨励し、支援することができている
- マネジャーの多くは、部下が新しいことに挑戦することを奨励し、支援することができている
- 社員がリスクをとって挑戦し、仮に当初に期待された成果が達成できなくても、マイナスに評価されることはない
コアとなるテクノロジー、コンピタンスを保持する
- 将来の社会や市場の変化を見据えて、必要となるテクノロジーや組織能力の見直しを常に行っている
- 将来、核となるテクノロジーや強みを保持するために、十分な研究・開発投資ができている
- 将来、核となるテクノロジーや強みを保持するために、十分な人材育成ができている
多様性を尊重する
- 社内の会議等においては、社員の多様な考えや視点が尊重され、活発に異論が出されている
- 経営方針や戦略を検討する際には、社外の多様な考えや視点も考慮に入れながら議論をしている
社会との繋がり、相互依存性を理解する
- 自社の事業活動が、社会にどのような影響を及ぼしているかを定期的に確認し、次の施策に反映させている
- 技術の進化や国際情勢、社会環境の変化が、自社の事業活動にどのような影響をもたらすかを常に意識している
- マネジャーや社員の多くは、自分たちがどのように社会の役に立っているのかを意識しながら仕事をしている
組織的な学習を促進する
- マネジャーや社員の多くは、相互にフィードバックを求め、与え合うことができている
- 組織の壁を超えて社内外の人と交流し、他者から学ぶことを重視する組織風土がある
- マネジャーや社員の多くは、過去の成功体験にとらわれることなく、新しい考えや行動をとることができている
※調査報告書は、下記からダウンロードすることができます。
https://www.jma.or.jp/activity/report.html
◆KAIKA経営は、組織の「レジリエンス」にもつながる
上記のとおり今回の調査で確認できた「能動的に変化に適応できる組織の条件」は、JMAが提唱しているKAIKAの考え方と合致するものでもあります。KAIKAは、「個人の成長・組織の活性化・組織の社会性」を同時に実現することによって、持続的に価値を生み出すことができるという経営・組織づくりの考え方ですが、今回の分析で抽出された組織の特性は、KAIKA経営モデルの構成要素と重なっています。逆に言えば、KAIKA経営を実践している組織は、変化に対して能動的に適応することができるということになります。
実際に、KAIKAを実践している組織の方々に、今回のコロナ禍への対応状況をお聞きすると、それ以前から、組織の理念や方針を共有し、社員の自律性を高め、コミュニケーションを活性化し、柔軟な働き方への対応をしていたことから、それほど大きな影響はなかった。さらには、コロナ禍に対して、お客様や社会への貢献、あるいは仕事の進め方などについて、社員からの自発的な提案が出てきたという事例を、多数、耳にすることができています。
以前に本コラムで触れたとおり、昨今、「レジリエンス」が注目されています。「弾力性」や「回復力」を意味する英語です。冒頭に述べたような、これまでにないような大きな変化の時代にあって、KAIKAの実践を通じて、組織のレジリエンスを高めていくことが、一層重要になっていると言えるでしょう。
※2020年5月13日付コラム:求められる社会や組織の「レジリエンス」